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2026年8月23日

七十二候とは?|一年を72に分ける日本の暦を、はじめての方にやさしく解説

七十二候とは?|一年を72に分ける日本の暦を、はじめての方にやさしく解説

今日、日本の暦がひとつ次へ進みました。

八月二十三日。この日から処暑(しょしょ)という季節が始まります。「処」には「とどまる・落ち着く」という意味があり、処暑は「暑さがようやくおさまるころ」を指す名前です。

でも、日本の暦にはもっと細かい目盛りがあります。一年を七十二に分けた暦です。

その目盛りで言うと、今日から五日間には、こんな名前がついています。

綿柎開(わたのはなしべひらく)
——綿の実を包むがくが、開きはじめるころ

五日間のためだけに用意された名前です。この記事では、その暦——七十二候(しちじゅうにこう)を、はじめての方にもわかるようにやさしくたどっていきます。

この記事でわかること

  • 「七十二候」とはどんな暦か
  • 「気候」という言葉のなかに、それが残っている話
  • 候の名前が、まるで短い詩のようだということ
  • 中国で生まれ、日本で作り直された道すじ
  • いま(2026年8月下旬)はどの候にいるのか
  • 暮らしのなかでの、ゆるい使い方

七十二候とは?

七十二候は、一年を七十二に分けて、それぞれに名前をつけた季節の目盛りです。一つあたり、およそ五日間になります。

成り立ちを追うには、まずその一段上の区分を知っておくと早いです。

二十四節気(にじゅうしせっき)——一年を二十四に分ける区分です。立春、夏至、立秋、冬至。日本のニュースで「暦の上では今日から秋です」と言うとき、根拠になっているのがこれです。一つおよそ十五日間。

七十二候は、その二十四節気をさらに三つずつに割ったものです。

  • 二十四節気 …… 一年 ÷ 24 = 約15日ずつ
  • 七十二候 …… 各節気 ÷ 3 = 約5日ずつ(24 × 3 = 72)

三つに割った順に、初候(しょこう)・次候(じこう)・末候(まっこう)と呼びます。

五日というのは、季節の単位としてはかなり短い。春夏秋冬なら三か月、二十四節気でも半月ですが、七十二候は週より短い。そこまで細かく季節を刻もうとした暦だ、ということです。

「気候」という言葉に、残っている

ここでひとつ、知るとちょっと嬉しいことがあります。

日本語にも中国語にも、気候という言葉があります。天気の長い傾向を指す、ごくふつうの言葉です。

この言葉は、二十四節気の「」と、七十二候の「」を組み合わせたものだといわれています。

つまり「気候」とは、もともと暦の目盛りの名前だった、ということになります。ふだん何気なく使っている単語のなかに、古い暦が化石のように残っている——そう思って見ると、少しおもしろい言葉です。

(この語源の説明は暦の解説として広く紹介されているものです。ここでは「そう説明されている」という形で紹介しておきます。)

候の名前は、短い詩のようだ

七十二候のいちばんの魅力は、七十二個ぶんの名前だと思います。

どれも漢字三文字か四文字で、そこで何が起きているかを一行で言い切っています。いくつか挙げてみます。

  • 東風解凍(はるかぜこおりをとく)……春の風が、氷をとかしはじめる〔立春 初候〕
  • 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)……冬ごもりしていた虫が、戸を開けて出てくる〔啓蟄 初候〕
  • 桜始開(さくらはじめてひらく)……桜が、咲きはじめる〔春分 次候〕
  • 玄鳥至(つばめきたる)……つばめが、渡ってくる〔清明 初候〕
  • 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)……蚕が起きて、桑の葉を食べはじめる〔小満 初候〕
  • 涼風至(すずかぜいたる)……涼しい風が、立ちはじめる〔立秋 初候〕
  • 草露白(くさのつゆしろし)……草の露が、白く光って見える〔白露 初候〕
  • 蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)……虫が、戸口のあたりで鳴いている〔寒露 末候〕
  • 閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)……空がふさがって、冬になる〔大雪 初候〕
  • 乃東生(なつかれくさしょうず)……夏に枯れる草が、芽を出す〔冬至 初候〕

気づくことがあります。どれも人間が主語ではありません。

風、虫、桜、つばめ、蚕、露、空、草。主語はぜんぶ、人間以外のものです。「暦」といえばふつう、人間の予定を並べたものですが、七十二候は人間以外のものの予定表のようにできています。

そして名前は、断定しません。「虫が戸を開ける」「空がふさがって冬になる」。観察したことを、そのまま短く置いてあるだけです。

説明ではなく、写生に近い。だから七十二候の一覧は、読んでいると詩集を眺めているような気分になります。

中国で生まれ、日本で作り直された

七十二候は、もともと古代中国で考えられたものです。二十四節気と同じく、中国から日本へ入ってきました。

ただし、ここで問題が起きます。中国と日本では、気候も、いる生き物もちがうのです。

中国の候の名前をそのまま使うと、日本では起きないことが暦に書いてあることになってしまいます。実際に使いにくかったようで、日本では暦学者たちが、日本の風土に合うように名前を作り直しました。

その中心にいたのが、江戸時代の渋川春海(しぶかわ しゅんかい/はるみ、1639–1715)です。中国の暦法をそのまま使うのではなく、日本と中国の経度の差などを計算に入れて日本独自の暦をつくった人で、貞享二年(1685年)から使われた貞享暦(じょうきょうれき)は、日本人の手による初めての改暦として知られています。渋川はのちに幕府の初代天文方(てんもんかた)——暦や天文を担当する役職——になりました。

この渋川春海ら暦学者によって、七十二候も日本向けに改訂されます。これを『本朝七十二候』(本朝=わが国、の意)といいます。

どのくらい変わったのか。春分の三候で比べてみます。

中国(宣明暦) 日本(略本暦)
初候 玄鳥至(つばめが来る) 雀始巣(すずめが巣を作りはじめる)
次候 雷乃発声(雷が鳴りはじめる) 桜始開(桜が咲きはじめる)
末候 始電(稲光が見えはじめる) 雷乃発声(雷が鳴りはじめる)

春分にが入りました。中国の暦にはなかった一行です。日本の三月下旬に何が起きるかといえば、雷より先に、桜が咲く。だから桜を入れた——そういう改訂です。

暦は、輸入したあとでその土地の目で見直された。七十二候は、その作業のあとがいちばん見えやすいところだと思います。

なお、いま日本で主に使われているのは、1874年(明治7年)の『略本暦(りゃくほんれき)』に載った七十二候です。江戸から明治にかけて、名前は何度か手直しされてきました。

いま、私たちはどの候にいるのか

2026年の処暑は、8月23日から9月6日までです。この十五日間が、三つの候に分かれます。

候の名前 意味 2026年
初候 綿柎開(わたのはなしべひらく) 綿の実を包むがくが開きはじめる 8月23日ごろ〜
次候 天地始粛(てんちはじめてさむし) 天地の暑さが、ようやくしずまりはじめる 8月28日ごろ〜
末候 禾乃登(こくものすなわちみのる) 稲が実り、穂が垂れる 9月2日ごろ〜

並べてみると、十五日間の物語になっているのがわかります。綿がはじけ → 暑さがしずまり → 稲が実る。

正直に書いておくと、実際の日本の八月下旬は、まだかなり暑いです。「天地始粛」と言われても、体感はまるで真夏のまま。暦と現実は、そこそこずれています。

それでも「暑さがしずまりはじめる」という名前が先に置いてあると、不思議とその兆しを探すようになります。夕方の風がすこし違う。日が落ちるのが早くなった。蝉の声が入れ替わっている。名前があるから、気づける。そういう順番のことが、たしかにあります。

暮らしのなかでの、ゆるい使い方

七十二候は、覚えるものではありません。七十二個も覚える必要はまったくないです。おすすめの付き合い方は、ひとつだけです。

いまの候の名前を、ひとつだけ知っておく。

それだけで、五日にいちど、季節が名前を変えていきます。カレンダーのように「あと何日」と数えるのではなく、「いまはこういう名前の季節らしい」と知るだけ。

日本では、この暦は日常のあちこちに顔を出します。和菓子屋の品書き、茶室にかかる軸、俳句の季語、天気予報のちょっとした一言。七十二候を知っていると、そういう場面で「ああ、あれのことか」とつながります。

旅行中なら、なおおすすめです。その日その土地で、暦が何と言っているかを見てみる。観光地の名前より、そちらのほうが記憶に残ることがあります。

おわりに

一年を七十二に分ける、というのは、よく考えるとかなり細かい話です。五日ごとに季節に名前をつけて、それを暦に書いておく。実用というより、ほとんどこだわりです。

けれど、その細かさが何をしていたかというと、たぶん見落とさないためでした。

季節は、ゆっくり変わります。ゆっくりすぎて、気づいたときには終わっている。夏が終わる日は決まっていないし、秋が始まる音も鳴りません。だから昔の人は、五日ごとに小さな見出しを立てておいたのだと思います。「いま、綿がはじけるころですよ」と、暦のほうから声をかけてもらうために。

今日、日本は「綿柎開」に入りました。綿の実を包むがくが開いて、白いものがのぞきはじめるころ、という意味です。

綿畑が近くになくても、かまいません。今日から五日のあいだ、空や風がすこし違って見えたなら、それはもう七十二候の使い方として、じゅうぶん正しいのだと思います。

参考

  • Wikipedia「七十二候」 https://ja.wikipedia.org/wiki/七十二候
  • Wikipedia「渋川春海」 https://ja.wikipedia.org/wiki/渋川春海
  • 国立天文台暦計算室「暦Wiki/日本の暦/渋川春海と貞享暦」 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/CEF2BBCB2FC6FCCBDCA4CECEF12F2.BDC2C0EEBDD5B3A4A4C8C4E7B5FDCEF1.html
  • 国立天文台暦計算室「令和8年(2026)暦要項 二十四節気および雑節」 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/yoko/2026/rekiyou262.html
  • All About 暮らしの歳時記「二十四節気『処暑』とは?2026年はいつ?意味や過ごし方、七十二候を解説」 https://allabout.co.jp/gm/gc/488818/
  • 日本文化研究ブログ「【七十二候一覧】七十二候の読み方と意味とは?」 https://jpnculture.net/shichijunikou/
  • 国営明石海峡公園 あいな里山公園「二十四節気七十二候」 https://kobe-kaikyopark.kkr.mlit.go.jp/24s74k-2