August 16, 2026
残暑見舞いとは?|「まだ暑いですね」だけを書く日本の手紙を、はじめての方にやさしく解説

八月なかば。お盆が終わって、街が少し静かになるころ。それでも日ざしは強く、夕方になっても風はぬるいままです。
ところが日本の暦の上では、この時期はもう「秋」ということになっています。暑いのに秋。その、ずれた数週間だけに出す手紙が、日本にはあります。
残暑見舞い(ざんしょみまい)です。
書くことは、ほとんど決まっています。「まだ暑いですね」「お元気ですか」。それだけを伝えるための、短い手紙です。
この記事では、残暑見舞いとは何なのかを、はじめての方にもわかるようにやさしくたどっていきます。
この記事でわかること
- 「残暑見舞い」とはどんな手紙か
- なぜ八月の途中で「暑中」から「残暑」に名前が変わるのか
- いつからいつまでに出すのか
- どうやって始まった習慣なのか
- 夏のはがき「かもめ〜る」が消えた話
- 実際の書き方と、短い例文
残暑見舞いとは?
残暑見舞いは、夏の終わりに、相手の健康を気づかって送る短い挨拶状です。はがき一枚で送るのがふつうで、用件はとくにありません。
ここで大事なのが「見舞い(みまい)」という言葉です。日本語の「見舞う」は、もともと訪ねていって安否を尋ねるという意味の言葉でした。病気の人を訪ねる「お見舞い」と、同じ言葉です。
つまり残暑見舞いは、本来は「暑いなか、あなたは無事だろうか」と会いに行くこと。それが、行けないときに手紙になった——そういう順番の習慣です。
だから中身は、相手のことを尋ねるだけでかまいません。近況を長々と書く必要はなく、むしろ書かないほうが形としてはきれいです。
そして日本には、これとほとんど同じ形の手紙がもうひとつあります。暑中見舞い(しょちゅうみまい)です。ふたつは中身も目的もほぼ同じで、ちがうのは出す時期だけ。ある一日を境に、呼び名が入れ替わります。
なぜ名前が「暑中」から「残暑」に変わるのか
境目になっているのは、立秋(りっしゅう)という日です。
日本では、一年を二十四に分けて季節の名前をつける二十四節気(にじゅうしせっき)という古い暦の区分が、いまも季節の目安として生きています。立秋はそのひとつで、「暦の上で秋が始まる日」にあたります。
この日は毎年少しずつ動きます。国立天文台が発表している2026年の暦では、立秋は8月7日です。
そして、立秋を過ぎてもなお残っている暑さのことを「残暑」と呼びます。
- 立秋の前日まで……暑中見舞い
- 立秋から……残暑見舞い
相手に届く日で判断します。8月7日ごろを境に、同じ内容の手紙の名前だけが変わる、というわけです。
おもしろいのは、この切り替えが体感の気温とまったく関係ないことです。日本の八月後半は、たいていまだ真夏です。それでも暦が「秋」と言うので、手紙のほうが暦にしたがう。「暦の上ではもう秋ですが」という言い回しが挨拶に定着しているのは、そのためです。
暑いという事実と、秋だという建前。そのずれを、日本人はわざわざ手紙の名前にして残してきました。
いつまでに出すのか
いちばん広く言われている目安は、8月末までです。
九月に入ってから「残暑お見舞い」と届くと、季節の挨拶としては少し遅い印象になる——という理由で、8月31日を区切りとする案内が多く見られます。
もう少しこまかい目安として、次の二つもよく挙げられます。どちらも二十四節気の日です。
- 処暑(しょしょ)……「暑さがおさまる」という意味の節気。2026年は8月23日。ここまでに届けば理想的、とするもの
- 白露(はくろ)……秋が深まりはじめる節気。2026年は9月7日。遅れてしまった場合でも、ここに入る前には届けたい、とするもの
正直に書いておくと、この終わりの時期については決まった一つの答えがありません。「特に日付を決めない」という説明もあれば、「遅くとも8月まで」という説明もあります。始まりの立秋がはっきりしているのに対して、終わりのほうはゆるいのです。
季節の挨拶なので、季節が変わってしまう前に、というくらいの感覚でよいのだと思います。
どうやって始まった習慣なのか
この習慣の始まりは、江戸時代だといわれています。ただし、ここから先は確かな記録というより言い伝えとして語られている部分が多いので、そのつもりで読んでください。
もとは、お盆に里帰りするとき、ご先祖の霊に供えるための品を持って行った習わしだった、と説明されます。それがしだいに、先祖だけでなく、日ごろお世話になっている人へ夏の贈り物を持っていく習慣へ広がっていきました。
そして、遠くて訪ねられない相手には、飛脚(ひきゃく)——手紙や荷物を走って運ぶ、江戸時代の配達人——に品物と書状を託した。ここで初めて「行けないから、手紙で」という形が生まれます。
大きく変わったのは明治時代です。1873年(明治6年)以降、郵便のはがきが使えるようになると、贈り物のやりとりはだんだん簡素になり、挨拶状だけを送る形が広まっていきました。そして大正時代に、いまの「暑中見舞い」「残暑見舞い」の形として定着した——とされています。
訪ねる → 品を届ける → 手紙を届ける → はがき一枚。だんだん軽くなってきた習慣です。けれど、いちばん最初にあった「無事でいるだろうか」という気持ちのところだけは、名前のなかに「見舞い」として残りました。
夏のはがき「かもめ〜る」が消えた話
日本にはかつて、この時期のための専用のはがきがありました。「かもめ〜る」です。
夏のおたより用のはがきとして1950年(昭和25年)から発行され、1986年(昭和61年)からはくじ付きになりました。年賀はがきと同じように、番号が当たると賞品がもらえるしくみです。夏のあいだ、日本じゅうでこのはがきがやりとりされました。
いちばん多かったのは1993年(平成5年)で、その年の発行枚数は3億4千万枚。人口一人あたり、二枚以上が刷られた計算になります。
しかし、その後は減りつづけました。メールやメッセージアプリが当たり前になり、はがきを買う人がいなくなっていったからです。そして2020年(令和2年)の発行をもって、かもめ〜るは終了しました。
いまも夏の絵入りはがきは売られていますし、ふつうのはがきで出してもまったく問題ありません。ただ、「夏はこれを出すもの」という全国共通の目印は、なくなりました。
消えかけている習慣です。それを隠さずに書いておきたいと思います。そのうえで——だからこそ、いま届く一枚には、以前よりも意味があるのだとも思います。
書き方——四つのかたまり
形式はかなりはっきり決まっていて、覚えてしまえば数分で書けます。ふつうは次の四つの順に並べます。
- 見舞いの挨拶……「残暑お見舞い申し上げます」。本文より少し大きめの文字で書きます。句点(。)は付けません
- 時候と安否の挨拶……この夏の暑さに触れ、相手の体調を気づかいます
- 本文……日ごろのお礼や、自分の近況を短く。長く書かないのがコツです
- 日付……具体的な日にちは入れません。「令和八年 八月」「晩夏」「立秋」のように、月か季語でとどめます
もうひとつ、知っておくと迷わない決まりがあります。「拝啓」「敬具」は書きません。
日本の手紙には、頭語(とうご)と結語(けつご)という書き出し・締めくくりの決まり文句があります。「拝啓」で始めたら「敬具」で終える、という組み合わせです。ところが残暑見舞いでは、冒頭の「残暑お見舞い申し上げます」がその役目をすでに果たしているので、重ねる必要がありません。
短い例を挙げます。
残暑お見舞い申し上げます
立秋を過ぎましたが、厳しい暑さが続いております。皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか。
こちらは変わりなく元気にしております。暑さもまだしばらく続くようですので、どうぞご自愛ください。
令和八年 晩夏
これで十分です。用件がないことが、この手紙の用件だからです。
知っておくと安心なこと
いくつか、つまずきやすい点をまとめておきます。
喪中(もちゅう)でも出してよい。日本では、身内を亡くしてから一定期間、年賀状などのお祝いの挨拶を控える習慣があります。これを喪中といいます。ただし残暑見舞いはお祝いではなく季節の挨拶なので、自分が喪中でも、相手が喪中でも、送って問題ないとされています。
ただし配慮として、四十九日(亡くなってから四十九日間の忌の期間)が明けるまでは控えるのがふつうです。また、喪中の相手に送るときは、明るくにぎやかなデザインは避けて、落ち着いたものを選ぶとよいとされています。
返事としても使える。暑中見舞いをもらったのに返事が遅れてしまった、というとき。立秋を過ぎていれば、そのまま残暑見舞いとして返せます。遅れた分の名前が用意されている、と考えると気が楽です。
相手が大変なときは、無理に季節の話をしない。災害や体調のことがある相手には、暑さの話より先に相手のことを書く。もともとが「安否を尋ねる」手紙なので、そちらが本筋です。
おわりに
残暑見舞いは、たいしたことを書かない手紙です。
まだ暑いですね。お元気ですか。私は元気です。体に気をつけて。——本当に、それだけ。用件がないので、返事も要りません。
けれど、用件がないからこそ届けられるものがあります。「連絡する理由はないけれど、あなたのことを思い出しました」ということです。理由のある連絡なら、いつでもできます。理由のない連絡は、暦が背中を押してくれないと、たいてい出せません。
暦の上ではもう秋なのに、まだ暑い。その中途半端な数週間に、日本人は手紙を一枚置きました。ずれているから、書く口実になったのだと思います。
もし日本の夏の終わりに、誰かのことをふと思い出したら。長い文章でなくてかまいません。「まだ暑いですね、お元気ですか」——この一行が、そのまま日本の季節の挨拶になります。
参考
- 国立天文台暦計算室「令和8年(2026)暦要項 二十四節気および雑節」 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/yoko/2026/rekiyou262.html
- Wikipedia「暑中見舞い」 https://ja.wikipedia.org/wiki/暑中見舞い
- Wikipedia「夏のおたより郵便葉書」 https://ja.wikipedia.org/wiki/夏のおたより郵便葉書
- ミドリ「手紙の書き方 暑中見舞いの起源」 https://letter.midori-japan.co.jp/special/summer/origins/
- ミドリ「手紙の書き方 暑中見舞い・残暑見舞いの書き方(構成)について」 https://letter.midori-japan.co.jp/special/summer/format/
- リンベル「残暑見舞いはいつからいつまで?暑中見舞いとの違いは」 https://www.ringbell.co.jp/giftconcierge/2054
- 東京ガス ウチコト「残暑見舞いはいつからいつまで?送る時期や書き方、マナー、例文を紹介」 https://uchi.tokyo-gas.co.jp/topics/2586
- 三越伊勢丹「喪中の場合の暑中見舞い・残暑見舞いマナー」 https://www.mistore.jp/gifts/summergift/summergift_mochu_manner/
- ITmedia NEWS「『かもめーる』終了 21年度から発行せず 日本郵便が発表」 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2103/30/news087.html