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2026年8月19日

茶席のお菓子とは?|名前で季節をつたえる和菓子を、はじめての方にやさしく解説

茶席のお菓子とは?|名前で季節をつたえる和菓子を、はじめての方にやさしく解説

お盆が明けると、和菓子屋さんの店先が少しずつ入れかわります。

ついこのあいだまで、透きとおった葛や寒天のお菓子が並んでいたところに、栗の色や、月の形が混じりはじめる。まだ日中は暑いのに、ガラスケースのなかだけ先に秋になっている——そんな時期です。

茶道では、お茶より先にお菓子が出てきます。しかも、そのお菓子には一つひとつ名前がついていて、その名前が季節を運んでいます。今日は、茶席のお菓子の話をそっとたどってみます。

この記事でわかること

  • 茶席のお菓子は「主菓子」と「干菓子」の二種類に分かれること
  • 濃茶には主菓子、薄茶には干菓子、が基本の組み合わせだということ
  • お茶より先にお菓子をいただく理由
  • お菓子を盛る器も、夏と冬でかわること
  • お菓子についた名前(菓銘)が、和歌や俳句から来ていること
  • お菓子屋さんの店先が、暦より少し早く季節を変えること
  • 今日、お茶を買わずにためせること

茶席のお菓子は、二種類

茶の湯で使われるお菓子は、大きく二つに分かれます。主菓子(おもがし)干菓子(ひがし)です。

主菓子は、やわらかくて水分の多いお菓子。代表格が練切(ねりきり)で、白あんをもとに、花や実や風景のかたちに手で作られます。京都では「こなし」と呼ばれることもあります。饅頭や蒸菓子が出ることもありますが、いずれも季節や行事に合わせたかたちと名前を持つものが選ばれます。

干菓子は、乾いた小さなお菓子。型で打ち出した落雁(らくがん)のような「押物・打物」と、有平糖(あるへいとう)のように砂糖を煮て加工したもの。この二種類がよく使われます。手のひらにのるくらいの大きさで、口に入れるとほろりとほどけます。

ちなみに、和菓子全体を水分量で「生菓子・半生菓子・干菓子」と分ける方法もよく知られています。ただ全国和菓子協会は、この分け方について「科学的には正しいものですが、現実には即していないという面があります」と書いています。同じ羊羹でも、しっかり煉れば半生菓子、やわらかく仕上げれば生菓子になってしまうから。お菓子はきっちり線を引かれるのが少し苦手、ということのようです。

濃いお茶には主菓子、薄いお茶には干菓子

茶道のお茶には二種類あります。抹茶を濃くねっとりと練った濃茶(こいちゃ)と、さらりと泡立てた薄茶(うすちゃ)です。

表千家不審菴の説明では、正式な茶事では濃茶に主菓子を、薄茶に干菓子をもてなすのが基本とされています。濃いお茶には、たっぷりした生菓子。軽いお茶には、軽い干菓子。重さの釣り合いです。

ただし、これは絶対の決まりではありません。同じ説明のなかで、薄茶だけのもてなしに主菓子と干菓子の両方をすすめることもある、と書かれています。作法は思ったより融通がききます。

なぜ、お茶より先に食べるのか

茶席では、お菓子が先に出ます。お茶が来る前に食べきってしまうのが作法です。はじめての人がいちばん戸惑うところかもしれません。「まだお茶が来ていないのに、食べていいの?」と。

いいのです。むしろ、そのためのお菓子です。

理由としてよく挙げられるのは、口のなかに甘みが残っている状態で抹茶を含むと、苦みと甘みが釣り合って、後味がきれいになるということ。それと、濃茶はかなり濃厚なので、空腹のまま飲むと胃にこたえることがあり、お菓子がその手前のクッションになる、という説明です。

お菓子はお菓子として味わい、お茶はお茶として味わう。順番に、ひとつずつ。この記事の他のところでも何度か出てくることですが、茶道の作法の多くは「目の前の人に、この一服をおいしく飲んでもらうには」という一つの問いから枝分かれしています。お菓子が先に出るのも、その枝の一本です。

器も、季節でかわる

お菓子そのものだけでなく、盛る器にも季節があります。

正式な茶事では、縁高(ふちだか)という五段重ねの器が使われます。お客さん一人にひと重ねずつ配り、主菓子を真ん中に盛る。ひとりにひとつ、という配り方です。

薄茶のときは食籠(じきろう)という蓋つきの器が使われますが、ここにも決まりがあって、冬は塗物(漆器)、夏は焼物(陶磁器)を使うのが慣例とされています。

冬に漆のあたたかい手ざわり、夏に焼物のひんやりした肌。中身のお菓子は同じでも、触れる面がちがう。茶碗の形が夏と冬でかわるのと、まったく同じ発想です。

お菓子には、名前がある

ここが、茶席のお菓子のいちばんおもしろいところかもしれません。

和菓子には「最中」「羊羹」といった種類の名前とは別に、菓銘(かめい)という固有の名前がつくことがあります。全国和菓子協会は、菓銘は短歌や俳句、花鳥風月、地域の歴史や名所に由来している、と説明しています。

たとえば、こんな名前です。

初ちぎり(はつちぎり)——秋の、柿のかたちをした練切につけられる菓銘。江戸中期の俳人・加賀千代女の句「渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり」から来ています。見た目では渋いかどうかわからない、食べてみてはじめてわかる。そこに、結婚前の心細さを重ねた句だと説明されます。お菓子ひとつに、そんな話が入っています。

竜田(たつた)——紅葉をかたどった練切。奈良県北西部を流れる竜田川は紅葉の名所として多くの歌に詠まれてきました。その名前を借りています。食べる人は、行ったことのない川の紅葉を思い浮かべることになります。

東風(こち)——梅のかたちの練切。菅原道真の和歌「東風吹かば 匂ひおこせよ 梅の花」から。春風が吹いたら、香りを送っておくれ、と梅に語りかけた歌です。

お菓子は食べればなくなります。名前だけが、あとに残る。菓銘というのは、そのためにあるようなものです。

店先は、暦より少し早い

夏のあいだ、和菓子屋さんの棚は透きとおっていました。葛まんじゅう葛餅錦玉羹(きんぎょくかん)——寒天を煮溶かして固めた、ガラスのようなお菓子。中の餡が透けて見えます。

これは味の話である以上に、目で涼をとる工夫です。冷房のなかった時代、日本の夏は水の音や、風鈴や、透けた菓子で涼しくされてきました。

そして八月の後半になると、少しずつ入れかわります。九月には栗蒸羊羹が出て、月見の頃には月見団子が並ぶ。まだ半袖でいるうちに、店先だけが先に秋の顔をしています。

茶道には「季節を少し先取りする」という考え方があります。まだ暑いうちに、秋の名前をそっと出しておく。もうすぐ来ますよ、と先に知らせる。お菓子屋さんのガラスケースは、たぶん日本でいちばん正直な季節の予告板です。

今日、そっと触れるには

茶室に行かなくても、ためせることがあります。

お店でも、スーパーの和菓子コーナーでもかまいません。ひとつ、和菓子を買ってみてください。そして、名前だけ先に読んでから食べてみる。

「初雁」「早苗」「山路」——意味がわからなくても大丈夫です。わからないまま、少しだけ想像してから口に入れる。それだけで、味の入り方がすこし変わります。

もうひとつ。もし甘いものを食べたあとに苦いお茶やコーヒーを飲む機会があったら、順番を意識してみてください。甘い→苦い。逆にしたときと比べて、後味がどうちがうか。茶道が数百年かけて守ってきた順番の理由が、そこにあります。

おわりに

茶席のお菓子は、ただの甘いものではありません。お茶をおいしくするための下ごしらえであり、その日の季節を伝える手紙でもあります。

でも、むずかしく考えなくていいのだと思います。名前を読む。かたちを見る。食べる。おいしい。それで十分に、もう受けとっています。

まだ暑い日が続きます。帰り道に和菓子屋さんの前を通ったら、ガラスケースを一度だけのぞいてみてください。そこには、たぶん今日より少しだけ先の季節が並んでいます。

参考