2026年9月29日
「もったいない」とは?|惜しんでいるのは「物」ではありません——3つの意味と、世界語MOTTAINAIになるまで

お皿に、ごはんが少しだけ残っている。まだ着られるシャツを、捨てようとしている。
そんなとき、日本語ではほとんど反射的にこう言います。「もったいない」。
「無駄」と言いかえられそうで、じつは少し違う言葉です。惜しんでいるのは、失ったお金でも手間でもありません。では何を惜しんでいるのか。
10月は、日本では「食品ロス削減月間」です。この言葉がいちばん口にのぼる季節に、中身をそっとほどいてみます。
この記事でわかること
- 「もったいない」には、じつは3つの意味があること
- いちばん古い意味は「惜しい」ではなかった話
- 「もったい」とは何か——「もったいぶる」の「もったい」と同じ言葉です
- 惜しんでいるのは、物そのものではなく「値打ちが生かされないこと」
- ノーベル平和賞の受賞者が、この言葉を世界に広めた経緯
- 今日、もったいないにそっと触れる方法
「もったいない」には、3つの意味があります
国語辞典『デジタル大辞泉』は、「もったいない」の意味を3つ挙げています。
- 惜しい——役に立つのにそのままにしておいたり、無駄にしてしまったりするのが惜しい
- おそれ多い——身に過ぎて、かたじけない
- 不都合だ——ふとどきである
ふだん使うのは、ほとんど一つめです。けれど二つめも、いまも生きています。目上の人からほめられて「もったいないお言葉です」と返すとき、それは「惜しい」ではなく「わたしにはもったいない=身に余る」という意味です。
いちばん古い意味は「けしからん」でした
おもしろいのは、この3つが生まれた順番です。
『精選版 日本国語大辞典』が挙げる用例をたどると、いちばん古いのは鎌倉時代はじめの説話集『宇治拾遺物語』(1221年ごろ)で、意味は「あるべきさまを外れていて不都合だ、けしからん」。
次に「おそれ多い」の用例が、14世紀後半の禅僧の日記『空華日用工夫略集』(1378年の条)や、室町末の狂言の台本に出てきます。
そして「使えるものが捨てられて惜しい」という、いまの意味に近い用例が、同じ14世紀後半の軍記物語『太平記』に見えます。
つまりこの言葉は、はじめから「惜しい」だったわけではありません。「ものごとが本来あるべき形になっていない」という違和感が、まず先にありました。
「もったい」とは何か
では「もったい」とは何でしょう。
インターネットや本では、よく「もったい(勿体)は仏教の言葉で、物の本来の姿のこと」と説明されています。けれど辞書を引くと、少し違う景色が見えてきます。
『精選版 日本国語大辞典』の「勿体(もったい)」は、ありさまや態度がいかにも重々しいこと。人の品格、物の品位、風格、という意味です。「もったいぶる」「もったいをつける」の「もったい」は、まさにこの意味ですね。
さらに同じ辞典は、「もったいない」の例は中世から見られるのに対して、「もったい」単独の例は江戸時代になってから現れる、と注記しています。「ない」の付いた形のほうが、先に使われていたのです。
ですから、「もったい」がもとは何を指していたのか——仏教由来なのかどうかも含めて——はっきりしたことは言えません。語源には諸説あります。ここでは、確かめられることだけを手がかりにします。
それでも、ひとつ見えてくることがあります。「もったい」は、そのものがそのものらしくあるときの重み、値打ち、品位のことです。それが「ない」と感じるとき、人は「もったいない」と言ってきました。
惜しんでいるのは、物ではなく「生かされないこと」
辞書の三つめの意味を、もう一度よく読んでみます。
『精選版 日本国語大辞典』はこう書いています。使えるものが捨てられたり、働けるものがその能力を発揮しないでいたりして、惜しい感じである。
ここには「物」だけでなく、「働けるもの」も入っています。だから日本語では、こんな言い方も自然です。
- 「こんなに晴れているのに、家にいるのはもったいない」
- 「あの人の才能、ここで使わないのはもったいない」
- 「悩んでいる時間がもったいない」
どれも、失ったものを数えているのではありません。そこにある値打ちが、生かされないまま過ぎていくことを惜しんでいます。
「無駄」や「損」との違いは、たぶんここです。損は自分の側の話ですが、もったいないは、相手の側——ごはんや、シャツや、晴れた一日の側——に立っている言葉なのです。
MOTTAINAI が、世界の言葉になった日
この言葉は、いまでは英語のまま「MOTTAINAI」として知られています。広めたのは、ケニアの環境活動家ワンガリ・マータイさん(1940〜2011)です。
マータイさんは、女性たちと木を植える「グリーンベルト運動」を1977年に始めた人で、2004年、アフリカの女性として初めてノーベル平和賞を受けました。
2005年2月、毎日新聞社の招きで来日したマータイさんは、インタビューのなかで「もったいない」という言葉に出会い、深く心を動かされます。翌月、ニューヨークの国連本部での演説で、「MOTTAINAI を世界に広めましょう」と呼びかけました。
マータイさんが惹かれたのは、この一語が、ごみを減らす(Reduce)・くり返し使う(Reuse)・資源にもどす(Recycle)という環境の「3R」を言い表しているうえに、かけがえのない地球への Respect(敬意)まで含んでいる、という点でした。
「損をしたくない」ではなく「敬意」。外から来た人が、この言葉のいちばん奥にあるものを、まっすぐに言い当てたように思います。
10月は「食品ロス削減月間」
日本では2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行され、その第9条で10月は「食品ロス削減月間」、10月30日は「食品ロス削減の日」と定められました。消費者庁・農林水産省・環境省が連携して、この月に呼びかけを行っています。
法律の名前はかたいですが、中身は「食べられるのに捨てられてしまう食べものを減らしましょう」ということ。つまり、国をあげての「もったいない」の月です。
今日、もったいないにそっと触れるには
むずかしいことはありません。三つだけ。
一つめ。食べきれる量だけ、よそう。残さず食べることより、はじめから残らない量にするほうが、ずっと楽です。外食なら「少なめで」とひと言添えるだけでも。
二つめ。捨てる前に、直せるか考えてみる。日本には、割れた器を漆でつなぎ、継ぎ目を金で仕上げる金継ぎがあります。ひびの入った茶碗が、鎹(かすがい)で留められて名品として伝わった馬蝗絆(ばこうはん)の話もあります。直したあとが、そのものの物語になる。もったいないの、いちばん美しい形かもしれません。
三つめ。「もったいないお言葉です」を、一度使ってみる。ほめられたとき、「いえいえ」の代わりに。惜しむ気持ちと、身に余ると感じる気持ちが、同じ一語のなかに住んでいることがわかります。
おわりに
もったいないは、節約の言葉として語られることが多いです。でも、辞書をたどると、もう少しやわらかい姿が見えてきます。
そこにある値打ちが、生かされないまま終わってしまうのを、惜しむこと。
ごはん一粒にも、古いシャツにも、晴れた午後にも、それぞれの値打ちがある。そう思って眺めると、世界が少しだけ、ていねいに見えてきます。侘び寂びが古びたものに美しさを見つけるなら、もったいないは、まだ生かせるものに目をとめる言葉です。
今日の夕ごはん、最後のひと口を、少しだけ味わって食べてみてください。それだけで、じゅうぶんです。
参考にした情報
- コトバンク「勿体無い」(『デジタル大辞泉』:①有用なのにそのままにしておいたり、むだにしてしまったりするのが惜しい ②身に過ぎておそれ多い。かたじけない ③不都合である。ふとどきである/『精選版 日本国語大辞典』:①あるべきさまをはずれていて不都合である=初出の実例『宇治拾遺物語』(1221頃)②おそれ多い=『空華日用工夫略集』永和四年(1378)九月一六日、虎明本狂言・右流左止 ③使えるものが捨てられたり、働けるものがその能力を発揮しないでいたりして、惜しい感じである=『太平記』(14C後)三五、仮名草子『智恵鑑』(1660))
https://kotobank.jp/word/%E5%8B%BF%E4%BD%93%E7%84%A1%E3%81%84-645881 - コトバンク「勿体」(『精選版 日本国語大辞典』:①有様、態度がいかにもものものしいこと ②人の態度や品格。また、物の品位。風采。風格/語誌:「勿体ない」が中世から見られるのに対して、「勿体」単独の例は近世になってから現われる)
https://kotobank.jp/word/%E5%8B%BF%E4%BD%93-645877 - 語源由来辞典「勿体ない/もったいない」(和製漢語「勿体」を「無し」で否定した語。勿体の「重々しさ」などの意味から、はじめは「妥当でない」「不届きだ」の意で用いられた)
https://gogen-yurai.jp/mottainai/ - MOTTAINAI キャンペーン「MOTTAINAIについて」(2005年に毎日新聞社の招きで初来日した際、インタビューで「もったいない」に出会い感銘を受けた/Reduce・Reuse・Recycle の3R+Respect)
http://www.mottainai.info/jp/about/ - MOTTAINAI キャンペーン「MOTTAINAIキャンペーンのあゆみ」(2005年2月 来日/同年3月 ニューヨーク・国連本部での演説で「MOTTAINAIを世界に広めましょう」と提案、キャンペーン開始)
http://www.mottainai.info/jp/about/history/ - The Nobel Prize「Wangari Maathai – Facts」「The Nobel Peace Prize 2004 – Press release」(持続可能な開発・民主主義・平和への貢献により2004年ノーベル平和賞/アフリカの女性として初の受賞/1977年に植林を通じた草の根運動「グリーンベルト運動」を開始)
https://www.nobelprize.org/prizes/peace/2004/maathai/facts/
https://www.nobelprize.org/prizes/peace/2004/press-release/ - Wikipedia「ワンガリ・マータイ」(1940年4月1日〜2011年9月25日/環境分野の活動家およびアフリカ人女性として史上初のノーベル平和賞/2005年2月14日から10日間、京都議定書関連行事出席のため来日し「もったいない」を知る)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%A4 - 消費者庁「食品ロス削減月間」(食品ロス削減推進法第9条により、10月は「食品ロス削減月間」、10月30日は「食品ロス削減の日」。同法は令和元年10月1日施行)
https://www.no-foodloss.caa.go.jp/nofoodloss-month.html - 農林水産省「10月は『食品ロス削減月間』、10月30日は『食品ロス削減の日』!」
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/230929.html
「勿体(もったい)」を仏教語とし「物の本来あるべき姿」の意とする説明は広く見られますが、本記事では辞書で確認できる範囲にとどめました。『精選版 日本国語大辞典』の語誌によれば「勿体」単独の用例は「勿体ない」より新しく、語源ははっきりしていません(諸説あり)。3つの意味の成立順は、同辞典が挙げる初出の実例の年代にもとづく整理で、それぞれの意味が生まれた正確な時期を示すものではありません。