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2026年10月11日

「共直し」とは?|金継ぎの反対側にある、跡を消す器の直し方——同じ漆から分かれた二つの道

「共直し」とは?|金継ぎの反対側にある、跡を消す器の直し方——同じ漆から分かれた二つの道

金継ぎ(きんつぎ)は、割れた器を漆(うるし)で直し、継ぎ目に金を蒔いて仕上げる技法です。直した跡を隠さず、むしろ金の線として見せる。そこに惹かれる方も多いと思います。

でも、器の直し方はそれだけではありません。日本には、まったく逆の方向をめざす直し方もあります。

それが「共直し(ともなおし)」。割れや欠けを、まわりの色や質感に似せて直し、どこを直したのか分からないようにする技法です。

この記事では、跡を「見せる」金継ぎと、跡を「消す」共直し、その違いと共通点を、はじめての方に向けてたどります。

この記事でわかること

  • 共直しとは、どんな直し方か
  • 名前の「共(とも)」が意味すること
  • 金継ぎとの違い、そして意外な共通点
  • 漆で「白」を出すのがむずかしい理由
  • どちらを選べばいいか、の考え方

共直しとは——跡を消す直し方

漆と修復を専門にする河井菜摘(かわい・なつみ)さんは、共直しを「欠けたり割れたりした箇所を周りの質感に似せて修理する技法」と説明しています。そして、できるだけ修理したことが分からないように直す、時を巻き戻すような技法だ、とも。

中川政七商店の読みものに載った河井さんの取材記事でも、共直しは、割れや欠けのまわりに残っている「オリジナル」をまねて再現する技法として紹介されています。仕上がりによっては、どこが欠けていたのか分からないほどになることもある、と。

金継ぎが「ここで割れました」と語る直しだとすれば、共直しは、器にそっと元の顔を取り戻させる直しです。

「共」は、「同じもの」のしるし

「共」という字は、日本語で「同じもの・そろいのもの」を表すことがあります。

たとえば着物や洋服を仕立てたときに出る、本体と同じ生地の余り布を「共切れ(ともぎれ)」「共布(ともぬの)」といいます。

共直しの「共」も、同じ感覚で読むと分かりやすくなります。器と同じ色、同じ質感で直す。金という「別のもの」を足して見せる金継ぎとは、そこがいちばん大きな違いです。

ちなみに、金継ぎには、足りないかけらをよその器から持ってきて継ぐ「呼継(よびつぎ)」という方法もあります。金継ぎの工房「つぐつぐ」は、同じ器の破片どうしを継いで元の姿に戻す「共継ぎ」を、この呼継と対照的なものとして説明しています。

実は、どちらも漆でできている

見た目は正反対ですが、日本の共直しと金継ぎには、大きな共通点があります。どちらも、基本は漆で直すということです。

漆で割れを接着し、欠けを埋め、表面をなめらかに整える。ここまでは同じです。違うのは、最後の仕上げ。

  • 金継ぎ……最後に金や銀の粉を蒔いて、継ぎ目を光らせる
  • 共直し……漆に顔料などを混ぜて器の色をつくり、まわりになじませる

先ほどの取材記事によれば、河井さんは漆を基本にしながら、色土や胡粉(ごふん:貝殻からつくる白い顔料)など、画材になるものも試しながら使っているそうです。古い器なら、あえて古びた風合いに寄せることもある、と河井さんは書いています。

つまり、ひとつの漆という素材から、跡を見せる道と消す道、両方が分かれていくのです。仕上げの違いについては銀継ぎや漆継ぎの記事でも書きました。

漆で「白」を出すのは、むずかしい

共直しには、素材ならではの難しさもあります。

金継ぎ工房のつぐつぐは、漆はもともと茶色いため、白い顔料をたっぷり混ぜても真っ白にはならず、肌色や薄茶色に寄ってしまうと説明しています。白い磁器の欠けを漆で直すと、どうしても少し色が違って見えることがあるのです。

同じ工房は、色を合わせるのは金を蒔くより手間がかかること、そして元の色と完全に同じにはならず、多少の違いが出ることがある、とも案内しています。

「分からないように直す」といっても、魔法ではありません。どこまで近づけるかを、器ごとに職人さんが探っていく仕事です。

見せる直しと、消す直し

西洋の陶磁器の修復にも、跡を目立たなくする方向の考え方があります。つぐつぐは、合成樹脂のパテに顔料を混ぜて欠けを埋めるイギリス式の「カラーフィル」という方法を紹介しています(こちらは観賞用が前提で、食器には向かないとのこと)。

そう考えると、「直した跡を見せる」金継ぎのほうが、世界的に見るとちょっと珍しい選び方なのかもしれません。

でも日本の工房では、金継ぎと共直しのどちらか一方だけ、ということはあまりありません。同じ工房が両方を手がけ、器や持ち主の気持ちに合わせて相談しながら決めています。

どちらが正しい、ではないのです。

どちらを選べばいい?

考えるときの手がかりを、いくつか挙げておきます。

  • 割れたことも、その器の物語にしたいなら、金継ぎ。継ぎ目が新しい景色になります。
  • 元の姿のまま、また使いたいなら、共直し。贈られた器や、作家ものの柄をそのまま残したいときに。
  • 白い器の場合、漆の共直しでは色が少し違って見えることがあります。見本を見せてもらうと安心です。
  • 費用は工房によって違います。色合わせは、追加料金がかかる場合があります。

口をつける器なら、何で直すのかも確かめておきましょう。食器としての注意点は金継ぎの直し方の記事にまとめています。

今日、そっと触れるには

家にある、ちょっと欠けてしまった器をひとつ手に取ってみてください。

その欠けを、金の線で見せたいでしょうか。それとも、なかったことのように直したいでしょうか。

答えは器によって違っていいはずです。どちらに心が動くかを考えるだけで、その器があなたにとってどんな存在なのか、少し見えてきます。

おわりに

金継ぎは、割れたことを受けいれて、器の歴史に書き足す直し方。

共直しは、割れる前の姿を思い出して、器に返してあげる直し方。

向かう先は反対でも、どちらも「この器を、もう一度使いたい」という同じ気持ちから始まっています。そして日本では、そのどちらにも、同じ漆という素材が寄りそってきました。

出典

  • 河井菜摘「共直しのリーフレットができました【修復】」(共直し=欠けたり割れたりした箇所を周りの質感に似せて修理する技法/修理したことが分からないように直す、時を巻き戻すような技法/古い作品には古い時代感を出す修理も)
    https://kawainatsumi.com/news/共直しのリーフレットができました【修復】.html
  • 中川政七商店の読みもの「漆を使って器をなおす、修復専門家のしごと」(2016年12月31日。共直し=周辺のオリジナルをまねて再現する技法/基本は漆、色土・顔料・胡粉なども使う/どこが欠けていたか分からないほどになることも)
    https://story.nakagawa-masashichi.jp/7430
  • つぐつぐ「金だけじゃない!漆による共継ぎ(共直し)で色を合わせた修理」(共継ぎ=同じものの破片同士を継いで元の姿に戻す、呼び継ぎと対照的/英国式カラーフィルはエポキシパテ+顔料で観賞用前提/漆はもともと茶色く真っ白は出せず肌色・薄茶色に/色は完全には一致しないことがある/色合わせは追加料金)
    https://kintsugi-girl.com/tomotsugi_colorfill_kintsugi/
  • コトバンク「共切れ」(衣服を仕立てたときに出た、本体と同じ生地の余り布。共地・共布とも)
    https://kotobank.jp/word/共切れ

「共直し」「共継ぎ」などの呼び方や、扱う技法・材料・費用は工房によって異なります。漆以外の材料(合成樹脂など)で直す場合、食器として使えるかどうかは工房や製品の案内をご確認ください。